■ はなだ歯科クリニック 院長 花田真也氏 に聞く![]() 福岡県のはなだ歯科クリニック 院長 花田真也氏 (写真中央)に、「歯科医がなぜ院内感染に気をつけなければいけないのか」「自分を変えた、ある健康診断の結果」「はなだ歯科での滅菌・防菌処置の具体例」について詳しく聞きました。 (はなだ歯科クリニックについて) ![]() (花田真也院長について) 1969年 福岡県生まれ。広島大学卒業。1995年より広島の歯科医で5年間、勤務医を経た後、2000年に故郷、福岡で自分の医院を開業。2003年より、キンバリー事件を知ったことをきっかけに、院内感染の防止策に力を入れ始める。現在は、感染予防など医療の質(安全性)の向上と、集患やコストダウンなど経営面の両方をバランス良く語れる歯科医として、セミナーなどを通じ啓蒙活動を続けている。国際歯周内科研究会指導医、床矯正研究会九州支部長、OAMインプラント指導医、日本口腔感染症学会 院内感染予防対策認定医。
― 花田先生が全国の歯医者さんに伝えたいことを、ズバリ一言で言ってください。 一言で言うならば、「歯医者って、病原菌がうつりやすい職業なんですよ。一番、危ないのは、毎日、不特定多数の患者さんの口腔に接しているあなたです」ということです。 さらに加えて良いなら、「あなたが感染したら、あなたの家族、スタッフ、患者さんにも感染する可能が高まります」とも、また「知り合いの肝臓の専門医が『歯医者さんて、肝炎が多いんだよね』と言っていた(※)」とも補足させてください。 ここに一枚の写真があります。献血希望者に配られるパンフレットです。「こんな方は献血をご遠慮ください」という項目として、「HIV検査目的の方」「一年以内に不特定の異性・同性と性的接触のあった方」「麻薬を使った方」「輸血・臓器移植を受けた方」などが書かれています。これらは常識的に当然でしょう。 ところが、最後の項目には「この三日間に、出血を伴う歯科治療(歯石除去を含む)を受けられた方(は献血をご遠慮ください)」と載っています。 ![]() これは何なのでしょうか。なぜ、この3日間に出血を伴う歯科治療を受けていたら献血できないのでしょうか? 私は、この一行の意味を、全ての歯科関係者は真剣に考えるべきだと思います。
大きくは、「歯科医療は、観血処置が日常的な業務であり、院内感染の危険性という意味では、他の医療現場と比べても、決して安全な環境ではない」ということです。 平たく言えば、「外科医ほどでないにせよ、血(あるいは唾液)など患者の体液と接するのが日常的であり、そこから感染が発生しうる。少なくとも聴診器やレントゲンなどを用いる非観血処置を日常とする医療現場よりは遙かに危険である」ということです。 医療関係者には周知のこととは思いますが、HIV、B型(C型)肝炎などの病気は、血液を通じて容易に感染します(※)。ミドリ十字の非加熱製剤の輸血によるHIVウイルスの集団感染は記憶に新しいところですし、現在、多くの日本人がかかっている肝炎も、昭和30年代に予防注射の針の使い回したことにより蔓延したといわれています。 医療の現場で、「血を観る」処置を、観血処置といいます。歯医者の治療においては、患者さんの歯や歯茎を触る(削る)過程で、少量ですが血が頻繁に出ます。しかも、一日に接する患者の数は多い。またハンドピースその他の器具を使う過程で、血や唾液などの飛沫が飛び散り、手や顔、眼球(粘膜)などにかかります。 ここまで言えば、歯医者の治療現場が、いかに院内感染の危険の高い場所であるかお分かりいただけると思います。私たちは、危険な職場にいるのです。 では、歯科医のみなさんは、あまねくこの事実を認識し、日々の治療現場において、正しい滅菌(防菌)処理をしているでしょうか。個人的には、処置が不十分な現場も多くあると考えます。 年配の医師などで、手袋をはめずに素手で治療している方もいらっしゃると聞きます。そうしたことは、医師本人のためにも、また家族やスタッフ、何より患者さんの安全のためにゆゆしきことだと考えます。私が、セミナーなどで滅菌・防菌措置の徹底を訴えているのはこうした理由からです。
― はなだ歯科では現在どのような滅菌施策を行っているのですか。 当院が実施している滅菌施策のうち、主なものは次のとおりです。
これらの施策に加え、「サイズが大きすぎる」「取り外しができない」などの理由で、機器による滅菌が不可能な備品については、ビニールで包むことにより、手袋が直接ふれたり、飛沫がかかったりすることのないよう処置しています。この器具包装ビニールの生産と供給は、豊ファインパックに依頼しています。
― たいへん徹底した衛生管理を行っていることが理解できました。しかし、素朴な疑問として、やっぱり、そこまでやらなきゃいけないものなのでしょうか。 そのように感じるのはもっともな話ですし、実はわたし自身もかつてはここまで滅菌を徹底して行う気にはなれませんでした。では、そんな私がなぜ今のように滅菌の必要性に目覚めたのかを、お話しいたしましょう。 私は広島大学で学んだ後、1995年からの5年間を広島のある歯科医で勤務医として働きました。その医院の滅菌対策は今、考えてもしっかりしたものでした。その後、2000年に、念願の自分の医院を開きましたが、では自分も広島の歯科にならって、滅菌対策を十分に行ったかというと、「いや、ほどほどにしかやらなかった」というのが正直なところです。 開院したばかりで集患や経営もまだまだ不安定。滅菌対策が大事だと頭では分かっているけれども、お金も人手もまわせない。まあ、大丈夫さ、正直、そう思っている部分がありました。 そんな私が、意識を変えたのは、アメリカの院内感染事例、キンバリー事件を知ってからです。
― キンバリー事件とはどんな事件ですか。 キンバリー事件とは、歯科医での治療行為を通じてHIVが蔓延したという事件です。具体的には次のとおりです。
この事件を通じて、私は歯医者が使う器具がいかに危険な物かということを理解しました。滅菌・防菌処理を怠るのは、恐ろしく危険です。 この認識を得て以来、歯医者での滅菌は、コストの問題じゃない、患者のため、スタッフのため、いや、正直言って何よりも、自分と、そして愛する家族のための行為だと考え、院内の滅菌体制を徹底することを決意しました(よく誤解されるのですが、わたし自身は、いわゆる潔癖性ではまったくなく、家の仕事机などは散らかりっぱなしで嫁さんには怒られているクチです)。 この考え(信念)は、数年前に受けた、ある健康診断の結果を通じて、自分の中でさらに強まりました。
2006年に健康診断を受けたところ、「C型肝炎の疑いあり。要精密検査」という所見がなされました。通知書を見たとき、目の前が真っ暗になりました。 「B型肝炎に感染? それなら私はいずれ肝硬変になって、最後は肝臓ガンになるのか? 精密検査はどこで受けられるのだろう? 入院が必要なのか? 自分の血液の中にウイルスが……。どこで感染というのだ? 歯科医院も続けていいのか? 家族やスタッフや患者さんに感染させる可能性もある。もしかして、すでに感染させていたとしたら…? 患者さんやスタッフにも「肝炎に感染した」と告白するべきか?」……。三日三晩悩み続けました。
何とも人騒がせな健康診断でしたが、しかし、その三日間の苦悩の中で、私は院内の滅菌の必要性を改めて痛感しました。感染は他人事ではない。スタッフが感染してしまったら… 患者さんが感染してしまったら… 家族が感染してしまったら。その人の一生を左右する問題です。 私は、今、自分がやっている滅菌対策がやりすぎであるとは全く考えていません。 ![]()
無駄な費用をコストダウンしましょう。そうして浮いた経費を滅菌対策に回せばよいのです。はなだ歯科クリニックでは、コストダウンは、まず手袋や注射器、紙コップなどディスポーザブル系の備品の価格を徹底して見直すことから始めました。必要十分な品質は確保した上で、1円でも安い仕入れ先を見つけるよう、調査と相見積を徹底しました。 歯科医の中には、医院に出入りする販売会社のカタログだけに頼って備品を調達しているところもあると聞きますが、それは甘すぎます。ネットが発達した時代ですから検索などを通じて、もっと貪欲に「より良く、より安い業者」を探すべきです。ディスポーザブル系は、毎日使う物なので5%のコストダウンであっても、年間を通じれば大きな差が出てきますから。 また高価な薬品の【過剰な使用】を慎むこともお薦めします。一瓶1万円(一滴60円)の薬を買って、それを三滴も四滴も、無造作に使っている先生を見たことがありますが、その薬の特性を考えれば、使用量は一滴でも医療の質は落ちません。
ではポジティブなこともお話しいたしましょう。滅菌対策に真剣に取り組むと、必ず劇的に改善されること一つあります。それは「衛生士など院内スタッフとの関係が、劇的に良くなる」ことです。 滅菌対策の徹底は、院内スタッフの安全確保の活動でもあります。その活動を通じ、「この医院は、自分たちや患者さんの健康と安全を真剣に考えてくれている」ということがスタッフに自ずと伝わるので、職場の雰囲気、人間関係、士気、定着率などがすべて向上します。 患者さんと直接接するスタッフのやる気が改善されることが、集患においてプラスになることはいうまでもありません。スタッフとの関係を良くしたいと考える方は、妙な心理学を勉強するよりも、滅菌対策に力を入れる方が早道だというのが私の考えです。
― 次は、先ほども紹介のありました、豊ファインパックが提供している、「通常の滅菌処理が不可能な備品に、唾液や血液がつかないようにするためのビニール袋(以下 「感染防止ポリ袋」)」について詳しくお聞きします。最初の質問です。豊ファインパックに依頼する前は感染防止ポリ袋はどこから調達していましたか。 最初の頃(2006年〜2009年)は、既製品で良いものがなかったので、スタッフが自作していました。アスクルでビニールを調達して、それにヒートシールカッターで、密封処理を施していました。既製品は、ほとんどは黄金比サイズであり、歯医者に使いよいサイズの物がなく、あっても値段が高かったので、見送っていました。 そんなある日、ネット検索を通じ、豊ファインパックを知りました。寸法や仕様がある程度オーダーメイドできて、しかも何より安い! 医院のカタログで買う場合の四分の一の価格でした。これは良いと、すぐさま問い合わせをし、まずは一万袋を注文、十分な品質だったので、以来、豊ファインパックを使い続けている次第です。
(田中) 簡単に言えば「生産者直送の卸価格」だからです。 皆さんがカタログで袋を取り寄せる場合、通販会社、販売会社の経費が上乗せされるので、その分、値段が高くなります。あの豪華なカタログを作るには大変な費用がかかりますから、それを使って物を買えば値段が高いのも当然です。 また、町の業務用ビニール袋店に買いにいったとしても、結局は、そのお店の運営費用が上乗せされますから、やはり価格は高くなります。 ― 袋が安く手に入るのはいいことですが、産地直送のようなことをしていると、豊ファインパックは、カタログ通販の会社からにらまれるのではないですか。 いえ、弊社は元もと、歯科医備品の通販会社と取引はないので、大丈夫です。豊ファインパックは、福井県鯖江市の袋メーカーです。主な取引先は、大手精密部品メーカーなどです。基本的には、製造業相手のビジネスを創業以来、何十年にわたり続けてきた会社です。 ― その豊ファインパックがなぜ、はなだ歯科クリニックに感染防止ポリ袋を売ることになったのですか。 先ほど花田先生のお話にもあったとおり、こちらが売り込んだのではなく、先生が弊社を見つけてくださったのです。ある時、売上げデータを見てみると、なぜかはなだ歯科クリニックをはじめ、全国の歯医者さんが、ポリ袋を頻繁に注文してくださっている。 「なぜ歯医者さんがウチの袋を?」と疑問に思い、お客様に聞いてみると、花田先生のセミナーで紹介されたからと皆が言う。いったいどんなことを喋っているのだろうと興味を持ち、2010年に先生のセミナーに出席してみました。そのセミナーを通じて、ウチのポリ袋が、院内感染防止のために使われているとはじめて知り、「おお、ウチの袋はそんな立派な目的で使われていたのか」と嬉しく思い、セミナー後、花田先生にご挨拶申し上げた次第です。
花田先生のセミナーを聞いて、歯医者さんに抗菌ビニールを供給することは、社会的意義のある仕事だと理解できましたので、弊社としても、歯科医のみなさまの便宜を図った供給体制を整えていく所存です。具体的には次のことを行う予定です。 1.歯科医向け仕様の袋の開発 花田先生など歯科医ユーザーのみなさまにヒアリングしながら、歯科医の現場で使いやすい仕様の袋を開発します。サイズだけでなく、持ちやすさや破りやすさなどにも留意します。 2.その袋の量産と在庫 → 「小ロットでも低価格」の実現 良い仕様が確立したら、その袋を、量産し、豊ファインパックで在庫します。この「大量生産と弊社在庫」が実現すれば、歯科医の皆様からの注文が小ロットであっても、大ロットの時と同じ低価格で袋をご提供することができます。 3.その他、コストダウン(低価格化)の取り組み お客様への発送に、宅急便ではなくメール便を使うなどして、コストダウン(低価格化)に取り組みます。 以上、豊ファインパックとしては、あらゆる側面から歯科医の院内感染防止に貢献していきたいと考えております。
― 花田先生の、今後の豊ファインパックへのご期待をお聞かせください。 (花田院長):先ほどお話にあった「小ロットでも低価格の発注を可能にする」というのは、歯科医に非常にありがたい取り組みです。現在、はなだ歯科クリニックでは、コストダウン(低価格化)のために一回に一万袋のロットで注文していますが、やはり在庫のスペース確保が大変です。これが小ロットで注文できて、在庫も不要になるならこんなありがたいことはありません。 豊ファインパックさんが、今回、院内感染の防止という意義をご理解くださり、様々な体制を整えてくださろうとしていることに、私としてはこれまでのご助力に感謝し、そして今後の計画に期待いたします。 (田中):お言葉有り難うございます。現在、弊社としても、この歯科医向けの感染防止ポリ袋の提供を、真剣に事業化したいと考えております。今後ともご指導ご鞭撻を宜しくお願いしいます。 (豊ファインパック 田中) ![]() ※ 事例制作の株式会社カスタマワイズが執筆 |