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■ 全周波数帯域向け 統合振動音響解析ソフトウェア VA One 導入事例 - ユニバーサル造船様
ユニバーサル造船は、旧 日立造船と 旧 日本鋼管の船舶部門が2002年に合併してできた造船会社です。タンカーや、ばら積船など、大型一般商船に強みがあります。また日本で唯一、砕氷船(氷を砕きながら進む船)を建造できる会社であることも特色です。南極観測船「しらせ」も弊社にて建造しました。建造拠点は有明、津、舞鶴、京浜、因島など5箇所、年商は2,867億円、従業員数は約3,600名です(※) VA Oneは、技術研究所において、船内騒音および水中放射音の解析に活用しています。かつては自社開発のプログラムで解析していましたが、現在はVA Oneが主システムです。すでに10年近く使い続けています。 2006年には、VA Oneを使った音響解析システムの開発について、日本船舶海洋工学会向けに論文を書きました。
― 今日は、「水の上を、プロペラの推進力で動く、巨大な鉄のかたまりである船」は、「道路の上を、車輪で走る、小さな鉄のかたまりである自動車」や、「空中を、ジェットエンジンで飛ぶ、巨大なカーボン繊維のかたまりである飛行機」や、「線路の上を、車輪で走る、大きな鉄のかたまりである電車」に比べて、音響(振動)を解析・制御する上で、どんな特徴、困難があるのかについて、そもそも論のところから、お聞きしたいと思います。 わかりました。なお事例インタビューへの回答ということで、技術的厳密性よりも「わかりやすさ」を優先して話すことはご了承ください。また電車や自動車など他の乗り物については「推測」で話をすることもご了承ください。
基本的には「静粛性」が重視されます。乗組員が快適にすごせる静かな船が、良い船です。 ― その船が静かであるかどうかは何を基準に判断するのですか。 船舶の騒音基準は、IMO(国際海事機関)により、国際基準が決められています。大きくは、この基準をクリアしていれば合格という判断になります(※) とはいえ実際の製造においては、IMO基準よりもさらに静粛になるよう設計しています。最近は、船主からも「乗組員が居住しやすい、できるだけ静かな船を」という要望が高まっています。船の静粛性を高めることは、市場ニーズへの対応、他社との差別化の面から考えても、重要です。
― 騒音制御における船ならではの特徴・特色(自動車、電車、飛行機など他の乗り物と異なる点)について教えてください。 まずはキーワードで自由に述べることにします。私見ですが、船の騒音制御の、他の乗り物の騒音制御とは違う特徴は、次のとおりです。 - 特徴1. 「船の騒音対策は、外部音源を気にしなくて良い」 - 特徴2. 「船は大きい。エンジンも大きく音源の音も大きい」 - 特徴3. 「小型特殊船、砕氷型ばら積船の騒音対策が難しい」 - 特徴4. 「船は溶接構造物なので音がよく響く」 - 特徴5. 「水中に放射される音の静粛化も必要」 - 特徴6. 「船のエンジンは、一定の回転数で回り続ける(急停止、急加速がほとんどない)」
― 順々にお聞きします。特徴1.「船は、外部音源を気にしなくて良い」とは具体的には。 船の場合、騒音の音源となるのは、プロペラを回すための主機(ディーゼルエンジン)と、船内の電力を確保するための主発電機(同じくディーゼルエンジン)など内部動力源だけです。外部との接触による騒音は、ほとんど気にする必要がありません。 自動車や電車では、道路や線路の上を走る際に、路上の異物や線路の継ぎ目と接触する際に、ガタガタ音が発生しますが、なめらかな水の上を航行する船では、そうした接触音はほとんど生じません。電車のようにパンタグラフと電線が擦れ合って出る音もありません。新幹線がトンネルに突っ込む時や、二台がすれ違うときには、パーンと衝撃音が聞こえますが、船の航行速度では、そういう音は起きません。 また、電車や飛行機に乗っているのは、主に一般人(乗客)ですが、タンカーやばら積船など実用船に乗っているのは、職業乗組員です。一般論でいえば、職業乗組員の騒音に対する要求基準は、一般乗客ほどには厳しくありません。そう考えると、船の騒音対策の方が、電車や飛行機よりやりやすいかもしれません。 以上、船の騒音対策における、他の乗り物よりシンプルな部分について述べました。しかし、やはり船の騒音対策には根本的に大変な要素があります。
船は、とにかく大きい。例えばマラッカ型の大型タンカーには全長が333メートルに及ぶ船もあります。東京タワーを横にしたのと同じ長さであり、地球上で最大級の乗り物です。その大きな鉄のかたまりをプロペラの回転だけで動かしているわけですから、エンジンは、とにかくデカイ。すぐそばでは音も大きい。船は、走行中でもエンジンルームに人が入れる唯一の乗り物ですが、エンジンの近くではうるさくて会話はまず不可能。作業中は耳栓をすることが義務づけられており、一回あたりの作業時間にも上限があります。この騒音を制御するのは、少々難物です。先に述べたIMOによる静粛性の基準を満たすには、エンジンルームや居住区画等において、船体構造や区画の配置を適切に設計する必要があります。
― ということは大型船の方が小型船より音響制御が難しいわけですね。
― 特徴3.「船は溶接構造物なので音がよく響く」とは具体的には 船体は、完全に溶接して作ります。300メートル級の巨大なタンカーであっても、構造は全部ひとつづきの溶接構造物であり、ボルト止めの箇所はありません。 船体が溶接構造物であることは、音の伝播という観点で云えば、途中でのエネルギー損失が少なく、伝播性が高いことを意味します。実際、巨大なタンカーであっても、コーンと叩けば、後ろから前まで音がよく伝わります。 また、溶接構造物であることは、継ぎ目に緩衝材を入れるなどの「対症療法的な騒音対策」が不可能であることも意味します。
船の場合、船内騒音だけでなく、水中に放射される音も、なるべく小さくする必要があります。空気中だけでなく、水中を伝わる音をも解析対象とするのは、船ならではのことだと考えます。 ― なぜ無人の水中に放射する音を小さくする必要があるのですか。 水中放射音の静粛性は、艦船や調査船などで必要になります(タンカーなど商船では、ほとんど必要ありません)。 まず艦船の場合、潜水艦など敵艦から発見されにくくするためにも、水中放射音を小さくする必要があります。また調査船においては、ソナーによる観測を妨げないために、水中放射音を小さくする必要があります。ソナーとは、水中に音波を発し、その反射音で海底の情報を得る観測装置ですが、水中放射音が大きいと、ソナーが正しく動作できなくなります。
なお水中では、空気中よりも、音速が速くなります。
― 水中では音速がどれぐらい速くなるのですか。 空気中での音速は秒速340メートルですが、水中での音速は、その5倍の秒速1500メートルです。つまり山の頂上から「おーい」と呼びかけるのと、水中で「おーい」と呼びかけるのでは、水中の方が5倍速く伝わります。ダイバーがSOSを発するために水中で何かをコーンと叩く音。あれも意外に遠くまでよく響きます。実は水中は、音が伝わりやすい環境なのです。 ― 生活実感としては、海に潜ったときの方が音が聞こえにくくなる気がするのですが。 その実感は、人間の耳が空気中で音を聞くことに最適化しているせいで生じているのであり、水という媒質の音響伝導性とは無関係です。イルカやクジラの耳なら、水中音響に最適化しているので、きっと遠くの仲間の鳴き声をクリアに聞き分けていることでしょう。
― 水中放射音を小さくするためにはどんな対策を行うのですか。 水中放射音の場合、音源は、エンジンかプロペラかのどちらかになります。 まずエンジン起源の音ですが、これは「エンジンが動く → 外板が振動する → その振動が音として水中に放射される」という経路で伝わります。この音を抑えるには、制振材をペタペタ貼って外板の振動を弱めるやり方もありますが、これではキリがありません。むしろ効果的なのは、音源を直接いじる方法です。たとえば音源(エンジン)と船の接合部に緩衝材を噛ませるやり方などが効果的です。 続いてプロペラ起源の音ですが、これは「プロペラが回転する → その時の流体音が水中に放射される」という経路で伝わります。これへの対策としては、プロペラの羽に突起物をつけて音の特性を変えるというやり方があります。音が小さくなるわけではありませんが、敵から判別されにくくなるという効果はある程度あります。
― 特徴 5:「船のエンジンは、一定の回転数で回り続けることが基本(急停止、急加速がほとんどない)」とは。 船の場合、いったん外洋に出たら、基本的には同じ速度で航行し続けます。自動車のように急加速や急減速を繰り返すことはありません。速度が一定であることは、エンジンの回転数が一定であり、すなわち発せられる周波数も一定になります。 ここでの周波数とは、音響ではなく、可聴帯域外の「振動」を指します。大きくは10Hz以下、つまり1秒に10回ぐらいの振動数でエンジン周囲がガタガタ揺れます。
― 現在、ユニバーサル造船では、どんな理論を使って、船の音響解析をしていますか。 船の音響解析には、基本的にSEA(統計的エネルギ解析)の手法を用いています。SEAを積極的に活用する主な理由は、船の音響解析では、扱う周波数の幅が広いからです。船の騒音の場合、船内騒音では60Hz〜8KHz程度の中間周波数から、水中放射音では40KHz等の高周波を解析します。私の印象では、SEAは他の手法に比べて、中間周波数から高周波数の解析に強いという印象があります。SEAは、多少の不得意はあれども、船に必要な周波数はオールラウンドで対処できます。船の音響解析にとっては便利な手法だと考えます。
(平川氏):個人的には以下のことに気をつけるようにしています。 1.細かい部材までモデル化しない 厳密性を求めるあまり、細かい部分までモデル化しようとするとドツボにはまります。「ざっくり行く」を心がけています。 2. 理論上の条件、制限を正確に認識する SEAにおいては、例えば、「要素の中にモード数が、最低いくつないと、解の精度が保証されない」などの理論上の条件、制約があります。それらの理論を再確認して、有意な解析結果を担保するよう心がけています。 3. 全てをSEAで解析しようとしない 例えば、居住区内の騒音は、「エンジンなど音源 → 鉄板 → 内装材 → 内装材からの放射 → 耳に到達」という順に伝わりますが、私がSEAでシミュレーションしているのは鉄板の振動までです。「内装材からの放射」については実測データを元に解析しています。
― 10年間使い続けてのVA Oneへの評価をお聞かせください。 VA Oneは次の点が良いと思います。 良い点1.「解析結果の信憑性が担保される」 VA Oneは名の通ったツールなので、学会その他で解析結果を発表する際にも、「ツールにはVA Oneを使用」といえば、「では、解析結果の信憑性は問題ないだろう」と思ってもらえます。これが「ツールは自社開発プログラムを使用」と云ってしまうと、「解析結果の正しさそのものの証明」から話を始めなければいけません。 良い点2.新しい材料、構造様式への対応が早い 未知の新材料、新素材の音響解析が必要になった時でも、VA Oneにおいては、日本イーエスアイに依頼すれば、マクロを追加するなり、カスタマイズするなりして、解決できます。かつては自前のプログラムで解析していたので、何かあるたび自分で追加開発しなければならず、大変でした。しかし今は定期的にバージョンアップされるので、放っておいても、新材料や新素材への対応がなされるので、とても楽です。
― 今後は、VA Oneをどう使っていきたいと考えていますか。 (平川氏):将来的には、VA Oneを設計部の人にも使ってもらえればと考えています。 ― 設計部の人が音響解析をするようになったら技術開発部の仕事がなくなるのでは ある意味、仕事がなくなってほしいのです。音響については任務完了ということにして、次の研究テーマに取り組みたいですし。
やっぱり、大きいことですね。この巨大な乗り物を、造船所一箇所で完結して、最初から最後まで作り上げられます。作っている最中のモノも、ドックの中で、この目で見られて、やりがいと楽しさがあります。進水式の時は、やっぱり感動しますよ。
現在、VA Oneはユニバーサル造船の音響解析の主ソルバーとして、フル活用されています。ユニバーサル造船では、今後も、乗組員の皆様が快適に過ごせる、静かな船が造れるよう、様々な努力をしていく所存です。日本イーエスアイには、優れた製品力とサポート力とで、ユニバーサル造船の研究開発を支援いただくことを希望します。また設計部の人でも使いこなせるよう、さらに操作が簡単になることも希望します。今後とも良い製品を作ってください。期待しています。
※ ユニバーサル造船のホームページ ※ 取材日時 2010年4月 ※ 取材制作:カスタマワイズ |